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「平等」にではなく「個別」に。多様な生き方をサポートし、働く女性が子どもの教育も諦めなくていい社会へ|ポピンズ 中村紀子さん・轟麻衣子さん

2016年9月 20日

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1987 年にナニー(ベビーシッター)サービスをスタートさせ、現在は幼児教育や介護事業にもその活動の幅を広げているポピンズ。そんなポピンズ代表取締役 CEO 中村 紀子さん、そして同社取締役 轟 麻衣子さんに、ポピンズが社内外で実践してきた「働く女性を応援する取り組み」と、そこに込めたお二人ご自身の「働くママ」としての想いについて、お話を伺いました。


女性には女性の働き方を。必要なのは「平等」ではなく、「個別名刺的処方箋」


ポピンズは設立から来年で 30 年を迎え、現在は多くの女性が長く働かれており、女性管理職の方も活躍されています。 設立の経緯はどのようなものでしたか?

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中村さん: 私自身、娘(轟さん)を産んでフリーアナウンサーになったのですが、早朝 4 時 5 時から誰に預けるかということに私自身悩んでいました。また、国の子育て支援策が整っていないことに愕然としましたし、男女雇用機会均等法が制定されたとはいえ、当時は働き方に関しても男性と同じことを求められていて、これは違うと感じていました。結果、子育てに一回家に入った女性は仕事に戻れないことが多く、大学院を出たような優秀な女性もパートでしか働けないというようなことが多々あったのです。 これではいけない、女性には女性の働き方をという想いで、女性だけを集めて教育ベビーシッターサービスをスタートしたのが 29 年前です。本当に優秀な女性ばかりが集まってきました。

その自社の女性たちが長く働き続けられる風土づくりのために、啓蒙されてきたご自身の想いはありますか?

中村さん: ひとつには、「子育てはキャリアである」ということをよく言います。子育ての経験はひとつのキャリアとして認められるべき、ということです。 ポピンズには保育士をやっていた女性が 1 人、執行役員にいます。通常、ジェネラリスト、スペシャリストでいうと管理職にはジェネラリストを偏重するように思いますが、子育てのスペシャリストとして120%答えてくれる人は、執行役員として積極的に登用してきました。これはポピンズの特別なやり方だったと思います。

そのほかにもたくさんの独自の取り組みをしましたよ。たとえば半年間の「子作り休暇制度」。これはとても優秀な社員に、「不妊治療に専念したいので辞めたい」といわれたのがきっかけで作ったものです。彼女は半年後また戻ってきて今も活躍しています。それから「出戻り1回OK制度」もあります。子育てに専念するケースのみならず、他社での経験などを経てやはりポピンズで働きたい、と思う人にはいつでも扉は開いているよ、というメッセージです。今や 1 回といわず 3 回出戻っている人がナニーサービスのトップを担っていますし、2 回戻ってきて執行役員をしている人もいますよ。

そんな風に、私は社員それぞれの声を聞いて「個別名刺的処方箋」でやっています。その人に合った対応をその時々で考えていかなければいけないのです。ポピンズには設立当初女性しかいなかったために、女性の個々の問題というのがよくわかって、それに個別的に処方箋を出すことで必ず育っていくという事例がいくつもできてきました。「公平」「平等」といっているうちは、真の女性の活躍はなしえないと思っています。

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経営者として、どんな困難も「意志あるところに道は開ける」という信念で。怒りを原動力に変えていく

働く女性として、中村さんご自身の原動力となったものはどのような想いでしょうか。

中村さん: 私は現状に怒りに似たものを覚えていて、それが大きな原動力になっています。 ポピンズは規制と戦い続けています。法律というのは世間の常識のあとに決まっていくべきものです。しかし日本では長年戦後措置児童対策として成り立った法律のままで、この保育所不足の現状にもかかわらず株式会社は保育園を開設できずにいた。国民の納税でやっているのに、納税者の希望に沿わないものでいいはずがありません。そんな怒りをもって政府や関係団体にアプローチし続け、2003 年には初めて認可保育所をポピンズが開設するに至り、現在は 40 か所に増えました。 また、保育の国家資格が絶対なのかという疑念もあります。これだけ保育士不足という現状があるのに、ポピンズのスタッフにも多く居るようなスキルの高い子育て経験者が保育士になれずにいる。繰り返しになりますが、子育てはキャリアとして認められるべきです。ISO を取得しているポピンズのような企業に例外もあってしかるべきと思いますが、現状そうでありません。 厚労省、都、自治体と何度も話を重ねましたが、今も国家資格は必須です。ポピンズでも保育士が足りず、保育所が開設できない危機もありました。それを打破するために結局、ポピンズの社員に国家資格を受けさせて、現場に出しています、そうせざるを得ないのです。と同時に、国家戦略特区に働きかけ、国家試験を年2回にしてもらうことが決まりました。

こうした戦いが今も続いています。ダイバーシティー推進の鍵は経営者の意志です。私はどんな困難も「意志あるところに道は開ける」の信念で突き進んでいますよ、ダンプカーみたいに。「中村さんの通ったあとはぺんぺん草も生えない」なんて、みんなに言われながら、ね。

7 今後、社内外でのさらなる女性活躍のために目指すこと、予定されていることを教えてください。

中村さん: 私が代表をつとめる女性管理職のネットワーキングと自己啓発の場である日本女性エグゼクティブ協会(JAFE)は 1999 年に一時休眠しましたが、経済状況の変化や国を挙げての女性の活用推進などの大きな変化を受け、昨年活動を再開しています。女性の生き方の多様化にともなって、女性、経営者側の双方にアドバイスを続ける存在として活動していきたいと考えています。さらに 2017 年には、Global Summit of Woman(GSW)東京大会の実行委員長として、世界各国の女性リーダーとともにBeyond Womanoimcs 、つまり「ウーマノミクスのその先」をテーマに考えていきます。


働く女性の幸せを考えたとき、子どもの「教育」に行き着いた

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ポピンズは保育のみならず、グローバル教育などの教育分野にも力を入れていらっしゃいます。どのようなきかっけで取り組まれたのでしょうか?

轟さん: 私自身、12 歳以降 25 年間を海外で過ごしました。帰国して感じたのは、日本ではグローバル化が叫ばれているけれど、グローバル化の本当の意味、本質はつかめているのだろうかということです。語学やICTはツールでしかなくて、本来はコミュニケーションをはかれるかどうかなのに、英語教育ばかりがフォーカスされています。私自身海外での経験から、大事なのは度胸や、伝えたいことがあるか、そして伝える力の問題なのだと感じています。ポピンズでは英語だけでなく、そういった姿勢を育成することも大切にしています。


一方で、いまの働く女性たちは「預かってもらえるだけの保育園すらない」という悩みをかかえています。

轟さん: いまは質が議論できる段階にはありませんね。日本では、教育は文部科学省の幼稚園で、保育は厚生労働省管轄の保育園でと縦割りの意識がいまだに存在します。働くお母さんは幼稚園に子どもをいれることはできず、保育園では子どもを「教育」する環境がないと思い込んでいます。そんな社会に対して、私も代表と同じように、「社会に貢献したいという女性のほうが教育を諦めなければならないなんておかしい」という怒りがありました。働くママが、子どもにとって最良な環境を諦めなくてもよい社会を作る、それが教育と保育を組み合わせた一歩先の考え方、ポピンズの「エデュケア(教育+保育)」が目指すことです。「こんな園に預けられるのだったら働いてみたい!」とお母さんたちに思ってもらえるような園を作っていきたいですね。

子どもの教育においては、どのような点を重視されているでしょうか?

轟さん: 教育といっても、単に漢字やことわざや英語を覚えたりすることではありません。それらはツールでしかなく、学びというのは、子どもがどういう風に世界を舞台にして生き抜くかを知るためのものです。そのためには子どもたちに「本物の体験」をさせてあげることが重要で、その体験こそが教育者が与えらえる最高のプレゼントなのです。

ポピンズアプローチでは具体的には、言語、多様性、主体的に考えること、これら 3 つを育んでいくべきと考えています。


 8 なかでも多様性は一番のキーだと思っています。6 歳までの子どもの環境設定は非常に大切で、人生の基盤になるものです。個性を伸ばし、多様性の環境を作るべきそんな時期に対峙する保育スタッフこそ、多様であるべきです。「大人が教える」という手法を教わってきた保育士資格 100 %にこだわること自体がそもそも多様性を排除していますよね。アート、音楽、英語のスペシャリスト、そしてもちろん男性も、さまざまな経験を持った多様な大人が教育に関わっていくべきだと思っています。この変化の激しい時代に、自分の経験値だけでははかりしれない、それ以上のことを教えていかないといけなくなっていると思います。そうなると、未知の世界に向かって何が必要かということを、大人が自分の経験にとらわれず、広い視野をもって考えていかなければならない時代に来ていると思いますね。


 7 それからアクティブラーニング、主体的に考えることも重要です。イギリスでは子ども達が全員一緒に同じ遊びをするというのではなく好きな遊びを主体的に選ばせたり、幼い頃から人の前で自分の好きなことを発表するという訓練をしたります。あくまで子どもの主体性を重視して、先生はファシリテーターに徹するのです。子どもの中心にいるのは子どもであるべきで、そこに各分野のプロの大人たちがいることで、子どもがやりたいと思ったことがより広がっていく。そして自分の意見は正しいと自信を持てる。そういうことが理想だと考えています。 日本では大人の側がやることを決めつけてしまっています。これは私が帰国して非常にショックを受け、今の日本で変えていかなければならないと思っていることです。


ご自身が海外で触れた保育のあり方が大きな「ショック」となって生まれたポピンズのサービスですが、今後はどこを目指していかれるのでしょうか?

轟さん: 海外のやり方をそのまま持ってくるのではなくて、日本の環境のなかでどのようにするのが望ましいかを考慮して作り上げているのがポピンズアプローチであり、「エデュケア」の根底にあるものです。日本の保育・教育のレベルをあげていくという大改革とともに、このポピンズアプローチが、モンテッソーリなどと同じように幼児教育の分野に名を残すことを目指したいと思っています。